職人のものづくり、第2弾。
EDOHOTARUがどのようにして生まれたのか。
商品開発を担ったオゼキの石川さんに、製作当時のことを聞いてみました。
初めての商品開発
EDOHOTARUの商品開発は、イギリスの2人組デザイナー「バーバーオズガビー」のうちの1人、エドワード・バーバー氏が休暇で訪日中、㈱オゼキに足を運んだことから始まりました。
- EDOHOTARUの話を初めて聞いたとき、どうでした?
石川さん:EDOHOTARUは、自分にとって初めての本格的な商品開発でした。
これまでの製造の仕事では、道具も原料もすべて用意された状態でいかに速くきれいに作ることができるかという事ばかりを追求してきましたが、EDOHOTARUではそれらすべてをいきなり自分で用意しなければいけませんでした。
ほぼ手さぐりで次にどうすればいいのか全く分からないという状況が常に不安で、大変だったという事が今でも印象的です。
デザイナーのアウトラインを基に木型を製作
商品開発は、まず、デザイナーから届くアウトラインを基に、シェードを張るための木型の図面を設計することから始まります。
後の雑誌記事によると、デザイナーのジェイ・オズガビー氏は、軽くて平たく畳める岐阜提灯の特徴を活かした大きいフォルムをデザインしたと話しています。
そして、その分フォルムはシンプルにデザインされています。
シャボン玉を2つつなげたような中央がくぼんだフォルムのものや、海に浮かぶブイからヒントを得たフォルムのものがあります。
- デザイナーのアウトラインから木型の図面を作るのに際して、どういうことが大変でした?
石川さん:ほぼ手さぐりな状況のなかでデザイナーの要望に速く正確に応えることが自分に出来ることの中で一番大切だと思っていました。パソコンである程度の図面を描くことは出来たので、デザイナーから届いたランプシェードのアウトラインから木型の図面を起こし、これなら出来ますとか、もっとこうしてくださいという意見を可能な限り早く出すように心がけていました。
デザイナーは、基本的にとりあえず作って見せてくださいというスタンスでしたので、自社で全部できるわけではないことを説明したり、試作を作るコストをなるべく抑えるために可能な限り細かく仕様を決めた状態で試作したい意図を理解してもらったり・・・言葉の壁ももちろんありましたが、製造に関することを理解してもらいながら説明するのがとても大変でした。
形が決まってからもまた苦労
木型の図面が確定すると、次は木型の製作や上下のリングの製作を専門業者へ製作依頼します。
- 図面が確定した後は、どうでした?
石川さん:いざ形が決まって作ろうとしたとき、その形を実現するための原料を作ってくれる社外の業者とのやり取りも知らないことだらけで、素材の特性や最小ロットなど基本的なことから勉強させていただきました。現状の仕様では作るのが難しい部分が新しく出てきたり、作ることは出来ても業者側の在庫や生産の都合で迷惑をかけてしまうこともあるということをこの段階でようやく考えることができました。
本来であれば新しいものを作ろうとしたときにまず考えなければいけないことですが、そんなことも知らない、分からないままプロジェクトが進んでしまい大きく回り道をしてしまいました。
デザイナーの想いを形にする難しさ
-デザイナーの商品を作ることは、デザイナーの想いを受け取り、それをお客様へ届ける橋渡しの役を担うことなりますが、やってみてどうでした?
石川さん:デザイナー案件は、作品としての理想を追求することはもちろん大事ですが、それだけではなく、自社の製品として販売価格とコストが見合うように形や原料を現実的なレベルに落とし込まなければいけないし、デザインの情熱やコンセプトを失わないようにしなければいけない。製造業ならどの分野でもあることだと思いますが、それらの相反する要素を両立できる方法の模索や葛藤が常にあり、そこには明確な答えが無いというのが苦しかったです。
石川さん:デザインのアウトラインはデザイナーが決めるが、そこに巻き付ける竹ヒゴの太さや間隔についてはこちらに任せるという事もあり、どの竹ヒゴをどのくらい巻き付けるのがデザイン的に美しいのかと悩んだり、むしろ作りやすさとコストだけ考えて決めればいいのかと考えたり、この仕様で行こうと自分を納得させる説明を自分で考えることは本当に苦労しました。
試作完成!!…あれ? パッケージングどうしよう…
-試作品ができたときは、どんな気持ちでしたか?
石川さん:プロジェクトを進めている最中は目の前のシェードの形や作り方ばかりに目が行っていましたが、最初の試作が出来上がった時に「これはどこにどうやって飾るんだろう?」という疑問が突如わいてきて、作った後のことも考えなければいけないんだとその段階になって急に焦ったのを覚えています。
設置のための器具の仕様も理解していないしパッケージングはどうするのかなんて全く考えていませんでした。既存の原料を流用することができる仕様を最初から知っていれば専用品を作るコストを抑えられたし、もっと効率的に進められた部分があったと気づいたときはとても悔しかったです。それまで自分には関係ないと思っていた知識でもどこかで役に立つことがあると痛感したので、これ以降は様々な分野の知識を積極的に身に着けていこうという意識が強くなりました。
次へとつながる経験が得られた
石川さん:自分の知識不足や経験不足を恨んだり、もっとこうすればよかったと後悔する事が非常に多く、情熱や気持ちだけでは製品は生まれてこないことを実感して、以前よりやや冷めた(現実的な)思考が強くなったのを感じましたが、この後のデザイナー案件に繋がる考え方やノウハウもたくさん手に入りました。
出来上がった製品を見てデザイナー側も満足してくれ、その後もシリーズ品を毎年考えてくれていることはとてもありがたく、大変だったけれどやってよかったと感じています。
「EDOHOTARU」は、試行錯誤の末、2年以上の歳月をかけた2015年秋のロンドンデザインウィークで「HOTARU」として発表されました。
その後、イギリスのtwentytwentyoneショップにて販売されてきましたが、この度、日本でも販売されることになりました。
ご興味のある方はぜひこちらをご覧ください。