家族、先祖、人への想いともに灯る盆提灯。
今回は、盆提灯の基本的な構造や作り方、伝統的な技法、魅力について紹介します。
盆提灯の基本的な構造
盆提灯には置くタイプと吊るすタイプの2種類があります。
置くタイプは「雲手・上柱・上輪・火袋・下輪・つば・房・三角・下足」でできており、足があることが特徴です。吊るすタイプは、「手板・上輪・火袋・下輪・房」でできています。
盆提灯の作り方
盆提灯の製造には実に多くの行程があり、そのほとんどの行程は分業制によって熟練した専門の職人の手から手へと繋いで作られています。
盆提灯の伝統的な工法としての主な製造工程は、提灯の骨格にあたる「張型」、「ひご」、「和紙」また、その張型と原料で提灯を張る「張り」。装飾部門では和紙に絵付けをする「摺込」や無地で張った火袋に手描きで描く「絵付」、提灯の上下に着ける「口輪」など多岐にわたり、それぞれ熟練した職人がその工程を担っています。
– 絵紙のできるまで –
–原紙の地色引き-
まず、提灯を張るための絵紙を用意します。原紙に、ドーサ(水で溶かした膠に少量のみょうばんを混ぜたもの)を引くことで、水彩絵の具の滲みを防止します。原紙が白地の場合はドーサ引き後の紙を使用しますが、原紙に地色引きをして和紙に背景色を付けることもあります。
– 絵の摺込 –
提灯の絵は、張り上げた火袋に絵師が直接描く方法と、紙の状態で絵を載せる摺込絵と印刷絵があります。摺込とは、伊勢型紙を使って紙に着色をしていく伝統的技法で、手描絵が活き活きとした力強い美しさを表現すれば、摺込絵は繊細で優しい美しさを表現します。岐阜提灯の摺込絵の技術は明治時代に開発され、現在も伝統的な技術として受け継がれています。
摺込は、まず版木と刷毛で版刷りします。版刷りを終えた和紙に伊勢型紙を当て1手ずつ原画と比べて忠実に色合わせをしながら摺込んでいきます。摺込みには、「ぼかし」とよばれる刷毛につけた顔料の量と刷毛さばきだけで1度にグラデーションをかけて摺込む技法や、刷毛に2色の顔料をのせ、1手で2色を同時にぼかしながら摺込み技法があります。
摺込みについては、「岐阜提灯の技①「摺込み」へ
– 火袋のできるまで -
-ひご巻き-
提灯は張り型を使って張ります。張り型の側面には無数の溝が切ってあり、その溝のことをひごを乗せるためのヒゴ目といいます。火袋に対するヒゴ目の数は製品に応じて異なり、高級品ほど多くなります。「張」は、ヒゴ目の切られた側面のカーブにビン付け油を塗り、張った紙が張り型に付着することを防いだあと、張り型を上下のコマの溝に差し込んで組み、ゴム紐で固定します。次に張り型の上方に開けられた穴にひごを通してツメ(短い爪楊枝のようなもの)で留め、張り型に切られた溝に沿ってひごを螺旋状に巻きます。
-張り-
ヒゴを巻き終えると上下に張輪をはめます。上下の張輪と、張輪から3本目までのヒゴに薄紙を張り付ける腰張りという作業をし、次に、ひごに叩くようにしてムラなくひごの表面だけに糊をつけます。この作業は「糊を打つ」と表現され、紙とひごがしっかりと接着しつつも、糊が側面や裏側に着いて提灯が畳めなくなるのを避ける必要があるため、火袋を美しく張り上げるための大変重要な技と言われています。糊を打った後、絵紙をひごの上に慎重に乗せ、指の腹を使って絵紙の全体をひごにしっかりと付けます。その後、撫で刷毛で撫でて、絵紙とひごを完全に密着させます。
このようにして1間を張り終えると1間おきに張り、その後間を絵柄が合うように張っていきます。重なった紙は、約1mmという極細の継ぎ目を残して切り落とします。その際に、重なった下側の紙を切らないように剃刀には力を加えず、剃刀の重さだけで滑らせながら余分な紙を裁ち切っていきます。
張り終えると乾燥機に入れて乾燥させ、乾燥後はコマを外して張り型を抜きます。張型を抜いた火袋はヘラで折り目をつけて丁寧にたたみ、張部分の行程が終了です。
張については、岐阜提灯の技 その②「張」へ
– 絵付け –
絵付けとは、無地の提灯に、絵師が直接絵を描いていく技法です。
提灯の絵は、ヒゴのある凹凸な曲面に活きた線を走らせること、位置、色、大きさを何百個と揃えることが必要とされます。筆は、彩色筆、平筆、、面相筆、片羽など日本画用の筆を使い、絵具は、顔料を少量のニカワで溶き、水の濃淡を調節して使用します。絵具の濃淡は、提灯に灯を入れたとき、光の透過に強弱を生み、絵柄を幽玄に浮かび上がらせる効果があります。そのため、岐阜提灯の美しさを左右する大変重要な工程となります。絵付けには「ぼかし」「たらし込み」「引っかけ」といった日本画の技法も活用されています。
-化粧輪のできるまで-
– 口輪づくり –
口輪は、火袋の上下に付いている輪のことを指します。御所提灯の下輪には底がつくのに対して、行灯の場合は上下ともに輪となります。口輪は張輪と外輪でできています。張輪はヒゴと紙を固定させ形状を保つものであり、外輪は、強度を補い見栄えをよくするために取り付けられるようになったと言われています。外輪には張輪と同じ高さの板を糊付けして重ねた「重ね輪」、外輪内側の上部にリングを糊付けし中輪を張った「無双輪」があります。
– 木地づくり –
木地づくりとは、盆提灯の部品である雲手、上柱、下足、三角などを規格型を基に使用する板から木取りする作業を言います。木取りが終わると、板からオビノコギリなどで挽き、挽いた後に面取りや研磨作業を行います。つばはろくろを使って削ります。ツバの上柱と下足の角穴は角ノミで開けます。三角は挽いた後にボンドで接着して仕上げます。
– 装飾 –
装飾とは、漆塗・蒔絵・塗装などのことを言います。現在の塗りは、機械で噴き付け塗装が主です。噴き付けでは、ワイン、オーク、ダークブランと素地を生かした塗装を施す黒檀、紫檀、欅、桜などがあります。蒔絵は漆で絵を描き、その上に金銀粉をまいた後に研ぎだして光沢を付けるのが昔からの手法で、平蒔絵、高蒔絵、研ぎ出し蒔絵があります。
塗り物以外では、杉柾、白木柾、桐のまま化粧輪として使う品物があります。また、これらの輪に胡粉で菊の花を施した盛り花の化粧輪もあります。
盆提灯・岐阜提灯の魅力
盆提灯・岐阜提灯はその名の通り岐阜で作られており、300年以上の歴史を持つ国の伝統工芸品です。江戸時代から現在まで、職人が手作業で作っています。
美濃地方には良質な美濃紙や竹があったことから岐阜提灯が発展し、花鳥や風景、秋の七草など、繊細な絵柄が描かれているのが魅力といえるでしょう。薄くて丈夫な本美濃紙で作られている岐阜提灯、細い竹ひごで作られた岐阜提灯など、優美な絵柄と結びついて上品さがあります。華やかさと清楚さの提灯が、故人への想いに寄り添います。
まとめ
今回は盆提灯の構造や作り方を紹介しました。盆提灯は大切な人への想いとともに飾るものですので、慎重に購入を決めたいものです。作り方は購入には直接関わりませんが、作り方の違いを知ることで、選ぶ参考になるのではないでしょうか。
あかりや次七では数多くの岐阜提灯を取り扱っています。今も昔も変わらない伝統的な手法で、熟練の職人たちが一つひとつ丁寧に作った岐阜提灯には、優雅な温もりが宿っています。盆提灯の購入を検討している方は、ぜひあかりや次七までご相談ください。