あかりや次七

2020.07.07|職人のものづくり

岐阜提灯の技 その②「張」

  前回の「摺込」の技では岐阜提灯の原料に当たる絵紙と呼ばれる、優雅な草花の絵が施された典具帖(極薄の美濃和紙)が出来上がるまでの行程を紹介しました。今回はその絵紙を使って実際に提灯が出来上がるまでを紹介します。

 岐阜提灯を実際に作る行程を「張」(はり)と言い、それを担当する職人のことを張師と呼びます。また、その張師が張り上げた提灯を「火袋」と呼び、火を入れる袋という意味を持ちます。

提灯は「貼る」ではなく、「張る」。

 提灯は畳まれた状態から張って使います。そのためその製造行程の1つ、「張」の作業も提灯を「張る」といい、また提灯の数え方も、「1つ」や「1個」ではなく「1張」と数えます。キャンプでお馴染みのテントなどと同じ考え方ですね。日本には無数の数え方があり、ものの数え方は日本の文化とも言えます。例えば椅子は1脚と数えたり、箪笥は竿に通して運んだことから1竿と数えます。日本ならではの数え方を、調べてみるのも楽しいかもしれません。

張型

 「張」の行程は、まず張型という火袋の形を決める木型を必要とします。張型の側面のカーブは火袋のフォルムを決め、その枚数は火袋の径が大きくなるにつれ増えていきます。型の側面には無数の溝が切ってあり、その溝のことを竹ヒゴを乗せるためのヒゴ目と言います。火袋に対するヒゴ目の数は製品に応じて異なり、高級品ほど多くなります。吊り型の御所提灯に例えると、同じ径30cm、同じ大きさの提灯で75本目から100本目までの差があります。張型の枚数とヒゴ目の数は岐阜提灯の形を精密に再現する指標とも言えます。

 今回は尺二(径1尺2寸=約36cm)で9枚の張型、伝統的工芸品の大内行灯を作る行程を説明していきます。

ヒゴ巻き

 「張」の初めの作業として、ヒゴ目の切られた側面のカーブに鬢付け油(現在ではハンドクリーム)を塗ります。張った紙が張型に付着することを防ぎ、火袋が張型から外れやすくするためのものです。ヒゴ目には漆が塗ってあり鬢付け油が木型に染み込まず、張った絵紙がより剥がれやすくなります。そのあと張型を上下のコマの溝に差し込んで組み、ゴム紐で固定します。次に張型の上方に開けられた穴に竹ヒゴを通してツメ(短い爪楊枝のようなもの)で留め、張型に切られた溝に沿って竹ヒゴを螺旋状に巻いていきます。竹ヒゴの場合長さが1本が4mほどなので、途中1つヒゴが終わると糸で次のヒゴを結び繋がなければなりません。尺二行灯で使用する竹ヒゴはおよそ72mほどになり、ヒゴとヒゴを糸で何度も結び繋いでいく根気のいる作業となります。

ヒゴ巻きが終わると上下に張輪をはめます。上の張輪に張型とおなじ間隔で9本の糸を結び、鈎針を使用して一番上の竹ヒゴに糸を巻いていきます。最初の竹ヒゴに糸を巻き終わると、上の張輪から下の張輪に向け張型に沿って糸をかけます。最後に一番下の竹ヒゴに糸を巻き、下の張輪に結びます。これを糸かけと言い、糸かけは火袋の伸びすぎを防ぐとともに、紙の破損を防ぐために重要な行程となります。また竹ヒゴを巻く際、巻く方向に型がずれやすくなるため、最後に張型の間隔が均等になるよう、間取りをおこないます。これで提灯の骨格となる、ヒゴ巻きの完成です。

糸かけ

 火袋は上下の張輪とそれに接するヒゴの部分が最も負荷がかかり、とても破れやすい箇所です。まず最初に、この破損しやすい箇所である上下の張輪と、張輪から3本目までの竹ヒゴに薄紙を張り付けます。これを腰張りといい、糸かけと同様に提灯に更なる補強をするための工程です。使用する糊は澱粉糊を水で溶き、張る素材に合わせた濃度に練っていきます。紙の厚さや、素材によっても糊の濃度は異なり、職人の経験と勘が肝心となります。適切な濃度に練られた糊を糊刷毛に着け、糊板で叩いて馴染ませます。次に竹ヒゴに叩くようにしてムラなくつけます。これを「糊を打つ」と表現し、竹ヒゴの表面だけに糊が着くようにするための技法です。この行程で糊を「打た」ず、塗るように着けた場合、竹ヒゴの側面や裏側に糊が回り、紙と竹ヒゴがしっかりと接着しません。そのため「ヒゴ浮き」の原因となったり、また側面や裏側に着いた糊が固まり、提灯を畳んだときの破損の原因にもなります。糊を打つ技法は火袋を美しく張り上げるための大変重要な技と言えます。糊を1間分打ち終わると、かけた糸にゆがみが生じるため、ホセと呼ばれる竹ベラで糸をきちんと張型の背に戻します。糸を修正し終わると絵紙を竹ヒゴの上に慎重に乗せ、指の腹を使って絵紙の全体を竹ヒゴにしっかりと着けます。

撫でハケ

その後撫で刷毛で撫でて、絵紙と竹ヒゴを完全に密着させます。 このとき強く刷毛で撫でると、紙が竹ヒゴに巻き込み、火袋の表面の凹凸が大きくなるため見映えを悪くし、また無地で張った場合、その凹凸が後の絵付作業を難しくします。撫で刷毛の手加減もまた、張師の熟練の技に委ねられる重要な行程の1つです。最初の1間を張り終えると余分な紙は剃刀で切り落とします。ここでも細心の注意が払われ、なるべく紙同士の継ぎ目が目立たないように張型にかけた糸に沿って間隔を狭く切ることが重要です。

紙裁ち

 このようにして1間を張り終えると次の1間は飛ばし、1間おきに4間(8枚型の場合)を張っていきます。これを下張といい、残りの4間を上張といいます。  これは岐阜提灯の特徴的な張り方で、一周張り上がったとき、絵柄の誤差を最小限にし、隣同士の絵紙を合わせやすくするための張り方です。下張を張り終えると残りの上張りを絵柄が合うように張り、余分な紙を約1㎜という極細の継ぎ目を残して切り落とします。その際、重なった下張を切らないよう剃刀には力を加えず、剃刀の重さだけで滑らせながら余分な紙を裁ち切っていきます。 

継ぎ目

 上張を張り終えると乾燥機に入れ乾燥させます。乾燥後はコマを外し、張型を抜きます。張型を抜いた火袋はヘラで折り目を丁寧につけて畳み、張部分の工程が終了です。

 その後、火袋は絵師へと渡り、葉脈などを補筆して火袋の完成となります。

張工程

 このように張の行程を見てみると、実に数多くの行程があり、また一見地味にも思えるような作業も、省くことなく丁寧に行うことで、繊細でありながら強度を持った優美な岐阜提灯がつくられるのです。

                                    

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